「銀」は色なのか、輝きなのか?
銀鮭(ギンザケ)、銀鱈(ギンダラ)、銀狐(ギンギツネ)、銀蜻蜓(ギンヤンマ)。生き物の名前には「銀」が登場します。しかし、実物がいつも銀色とは限りません。ギンザケは成長段階で体色が変わり、ギンギツネは黒っぽく、ギンヤンマは緑色が目立ちます。一方、銀色に輝くタチウオの名前には「銀」がありません。
金属の銀は「しろがね」とも呼ばれ、「白銀」「白金」とも書かれます。ところが「白銀の世界」は雪景色を連想させ、「白金」は銀とは別の元素、プラチナです。さらに東京には「白金」という地名まであります。
色、光沢、毛色、成熟、昔話、歌、地名。銀という一文字を深掘りします。関連記事:「白」の深掘り/「黒」の深掘り。
- 「銀」は色なのか、輝きなのか?
- 1.銀・しろがね・シルバー
- 2.ギンザケ――一生ずっと銀色ではない
- 3.ギンダラ――「銀」でも「タラ」でもない?
- 4.タチウオ――銀色に輝くのに「銀」が付かない
- 5.ギンヤンマ――全身ではなく、一部分の「銀」
- 6.ギンギツネ――銀・黒・灰色の境界
- 7.シルバーバック――成熟と群れのリーダー
- 8.銀と灰色は同じなのか?
- 9.銀鱗と銀輪――同じ「ぎんりん」
- 10.銀幕・銀河・銀シャリ・銀世界
- 11.白銀と白金――「しろがね」「しろかね」「はっきん」の違い
- 12.「銀」を深掘りして分かったこと
関連記事としては、以下があります。
1.銀・しろがね・シルバー
銀は元素記号Ag、原子番号47の金属です。金属光沢のある白い外観を持ち、日本語では古くから「しろがね」と呼ばれてきました。「銀色」は明るい灰色に近い色合いだけでなく、光を反射する輝きも連想させます。
「銀」という字は、金属そのもののほか、銀に似た輝き、貨幣などの意味でも使われます。漢字ペディア「銀」。
2.ギンザケ――一生ずっと銀色ではない
ギンザケ Oncorhynchus kisutch は、英語でも silver salmon と呼ばれます。海で生活する成魚は銀白色ですが、産卵期には体色が変わります。「銀」は、生活史のすべての段階に当てはまるわけではありません。
関連記事:サケ・シャケ・サーモンを深掘りリサーチ。参考:NOAA Fisheries:Coho Salmon。
3.ギンダラ――「銀」でも「タラ」でもない?
ギンダラ Anoplopoma fimbria はギンダラ科の魚で、マダラなどが属するタラ科ではありません。英語名は sablefish、別名 black cod。日本語では「銀」、英語の別名では「黒」が付くのに、どちらも分類学上のタラではないのです。
体は一様な銀色ではなく、暗色の部分も目立ちます。和名の「銀」がいつ誰によってどの特徴に基づいて付けられたのかは、命名当時の資料を確認する必要があります。外見から語源を断定することは避けます。
関連記事:他の動物名がつく動物/名と実がズレた生き物。
4.タチウオ――銀色に輝くのに「銀」が付かない
タチウオは刀のように細長く、金属的な銀色の体を持ちます。一般的な魚のような鱗を持たず、体表の反射性の構造が銀色の外観に関係しています。「銀鱗」という言葉と比べると、銀色なのに鱗がないという点が興味深い魚です。
名前の由来には刀の姿にちなむ説や、立つように泳ぐ姿にちなむ説がありますが、ここではいずれかに断定しません。
5.ギンヤンマ――全身ではなく、一部分の「銀」
ギンヤンマ Anax parthenope は緑色の胸部が目立つトンボです。「銀」の名は、腹部の一部に見られる銀白色の模様と結び付けて説明されます。生き物の名前では、全身ではなく、わずかな特徴が命名の手がかりになることがあります。
6.ギンギツネ――銀・黒・灰色の境界
ギンギツネはアカギツネ Vulpes vulpes の毛色型で、独立した別種ではありません。黒っぽい毛と銀白色の毛先が混じり、個体によって銀灰色からほとんど黒に見えることもあります。金属の銀のように全身が鏡面反射するという意味ではありません。
阿仁銅山の伝説――銀狐と白狐
秋田県の阿仁銅山の発見にまつわる「きつね女房」の伝説には、狐が人間の妻となって鉱山の発見へ導く話があります。記録によって妻の正体が「銀狐」とされたり「白狐」とされたりします。伝承上の色名と、動物学上の毛色型を同一視しないことが大切です。
参考:秋田県立博物館・銀狐の伝承/同・きつね女房。
昭和歌謡『夜の銀狐』――銀なのに灰色?
斉条史朗の『夜の銀狐』には、スペイン語で「夜の灰色の狐」に相当する表現が登場します。日本語では「銀狐」、スペイン語では「灰色の狐」。銀と灰色の近さを示す文化的な例です。ただし、歌詞の狐を動物学上のギンギツネと断定するものではありません。
7.シルバーバック――成熟と群れのリーダー

ゴリラの成熟した雄は、背中の毛が銀灰色になることから「シルバーバック」と呼ばれます。群れの中心となる優位な雄は、防衛、移動、仲間の争いの仲裁などで重要な役割を担います。このため「シルバーバック=ボス」という印象も広まりました。
しかし、シルバーバックは本来、成熟雄の外見に基づく呼称で、社会的地位そのものを表す言葉ではありません。特にマウンテンゴリラでは、同じ群れに複数のシルバーバックがいて、優位な雄と従属的な雄が区別される場合があります。単独生活を送る成熟雄もいます。
ギンギツネの「銀」が毛色の変異を表すのに対し、シルバーバックの「銀」は成熟に伴う毛色の変化を表し、さらに群れの社会生活を考えるきっかけになります。
8.銀と灰色は同じなのか?
魚の銀色は体表の光の反射、ギンギツネの銀色は毛色の組み合わせ、シルバーバックの銀色は成熟に伴う変化です。馬の芦毛も成長に伴って白い毛が増え、灰色から白色に近づくことがあります。見た目が似ていても、色が生まれる仕組みは同じではありません。
9.銀鱗と銀輪――同じ「ぎんりん」
「銀鱗(ぎんりん)」は銀色に輝く魚の鱗、「銀輪(ぎんりん)」は輝く車輪や自転車を表す言葉です。対象は違っても、光を受けた輝きを「銀」にたとえる点で共通します。
10.銀幕・銀河・銀シャリ・銀世界
「銀幕」は映画のスクリーンや映画界、「銀河」は天の川などの星の集まり、「銀シャリ」は白くつややかな米飯、「銀世界」は雪などで一面が白く輝く景色を指します。「銀髪」「シルバー世代」には年齢を連想させる使い方もあります。ただし、各語の成立史まで同じだとは限りません。
11.白銀と白金――「しろがね」「しろかね」「はっきん」の違い
「白銀」と「白金」は似た字ですが、読み方と文脈によって意味が異なります。金属の銀と、雪景色の比喩と、プラチナを区別してみましょう。
| 表記 | 読み | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 銀・白銀 | しろがね | 金属の銀(Ag)を表す古風な呼び名 |
| 白金 | しろがね | 辞書に残る、銀・銀色・銀貨の意味 |
| 白銀 | はくぎん | 銀や銀白色。「白銀の世界」は雪景色の比喩 |
| 白金 | しろかね | 銀の古い呼び名に通じる読み。東京都港区の地名 |
| 白金 | はっきん | プラチナ(Pt) |
銀を「しろがね」と呼ぶ
古い日本語では、銀を「しろかね」とも呼び、後に「しろがね」という形が広まりました。「かね」は現代の元素としての金(Au)だけではなく、金属を意味する言葉です。金を「こがね」、銅を「あかがね」、鉄を「くろがね」と呼ぶのも、色と金属の関係を考える手がかりになります。
「白金」という表記も、現在の辞書で「銀」「銀色」「銀貨」の意味を持つ言葉として確認できます。ただし、現代の実用的な文章で「白金」とだけ書けば、プラチナと誤解されやすいので、読みを示す必要があります。
参考:漢字ペディア「白金(しろがね)」。
『万葉集』の「しろかね」
山上憶良の『万葉集』巻五・803番歌には、次の一首があります。
銀も金も玉も何せむに優れる宝子にしかめやも
古い読みでは冒頭を「しろかねも くがねも」と読みます。銀も金も宝玉も、子どもに勝る宝ではない、という歌です。現代の「ぎん」とは違う読みが、日本語の歴史を伝えています。
「白銀の世界」は、金属の銀の世界ではない
「白銀の世界」は、一般には一面の雪景色を指します。雪が銀という金属に変わったのではなく、雪の白い輝きを銀にたとえた表現です。「白銀(はくぎん)」自体には金属の銀を意味する用法もありますが、慣用表現では景色の意味が前面に出ます。
東京都港区の「白金」は「しろかね」
東京都港区の「白金」「白金台」は、プラチナを意味する「はっきん」ではありません。港区の公式資料は、銀を多く持つ「白金長者」の伝承を紹介しています。また、『小田原衆所領役帳』には「白銀」と記されたと説明しています。ただし、長者伝説の細部を確定した史実とみなすことはできません。
参考:港区「地名の歴史(高輪地区)」。
そもそもプラチナとは?
プラチナ(platinum)は、天然に存在する貴金属の一種です。日本語では「白金」と呼びます。銀と同じような銀白色の光沢がありますが、化学的にはまったく別の元素です。銀は元素記号Ag、原子番号47。プラチナは元素記号Pt、原子番号78です。
プラチナは銀より密度が高く、同じ体積ならおよそ2倍の重さがあります。また、化学的に安定し、腐食しにくいことが特徴です。指輪などの宝飾品だけでなく、自動車の排ガス浄化触媒や燃料電池などにも使われます。
ところが、その名前は銀と深い関係があります。プラチナは、スペイン語で銀を意味する plata の縮小形 platina に由来し、「小さな銀」という意味合いで呼ばれました。銀に似た外観が、別の元素の名前にも反映されたのです。
なお、宝飾品の「ホワイトゴールド」は金(Au)を主体とする合金であり、プラチナとも銀とも異なります。
同じ「白金」が、銀とプラチナを指す
「白金」は辞書に残る銀の呼び名、「白金」は銀に関係する歴史を持つ地名、「白金」はプラチナという別の元素です。同じ漢字が、読み方や分野によって違うものを表します。ただし、これらが一つの語から一直線に変化したと証明されたわけではありません。
12.「銀」を深掘りして分かったこと
ギンザケの銀は生活史の一時期の色、ギンヤンマの銀は体の一部分の模様、ギンギツネの銀は毛色の変異、シルバーバックの銀は成熟の特徴です。銀鱗と銀輪では輝きが共通し、白銀の世界では雪景色の美しさを表します。
そして「白金」という字は、銀の古い呼び名にも、現代のプラチナにも使われます。「銀」は単なる色の名前ではなく、光沢、毛色、成熟、価値、文化、言葉の歴史を結び付ける存在なのです。
興味深いですよ!「名前に宿る『銀』の不思議」。
次回は「金(ゴールド)」を深掘りしてみたいと思います。
次回も お楽しみに!


