「生き物にまつわる言葉を深掘り」では、過去に何度か神社仏閣で見ることのできる生き物(像)について、投稿を重ねています。
今回の「生き物にまつわる言葉を深掘り」のテーマは、「猿神」です。
「猿神」の意味や語源、用例などを深掘りリサーチし、以下の目次に沿ってレポートしていきます。
猿神とは?
猿神とは、猿を神格化したり、神の使いとして崇める概念です。古来より、世界各地で猿を神聖視する文化が見られ、日本においても、特に山岳信仰や自然崇拝と深く結びついて発展してきました。
猿神(さるがみ)は、日吉神などの太陽神の使者とされるサルの化身、および中世の日本の説話に登場するサルの妖怪。
【東京都千代田区・日枝神社の猿神】
山神としてのニホンザル
猿は古来“山神”とされた。 猿は他の獣とは違って人の異形にして縮小態であり、それゆえに、山神の使者、あるいは神そのものとされたのも自然な成り行きであった。・・
日吉信仰はおそらくその字のとおり太陽崇拝に関係しており、日の出とともに騒ぎ出す猿は日神の使者と考えられたのではないかという。 中村禎里によれば、猿神が日本土着の起源をもつことは、これが日吉系の各社にかぎらず浅間など各地で山神信仰と結びついていることからも明らかだが、そうした山神としての猿信仰が、仏教とともに流入したインドの土俗神とおそらく習合し、さらに「日吉」「庚申様」「馬頭観音」「猿田彦」などの猿と関連づけられた“看板”を獲得しながら普及する中で、後世の日本人の信仰が形づくられてきたのだという。
猿神の語源と由来
- 猿を神格化: 猿の知性、機敏さ、群れで生活する社会性など、人間との共通点が多いことから、古くから人間は猿に特別な感情を抱いてきました。その感情が発展し、猿を神格化するに至ったと考えられます。
- 自然崇拝: 山岳信仰において、山は神聖な場所とされ、そこに生息する動物も神聖視されることが多くありました。猿は山の精霊や神の使いとして崇められ、猿神へと発展したと考えられています。
- 漢字の成り立ち: 漢字の「神」という字は、本来、人が手をあげて祈る姿を表していましたが、後になって猿が神のお告げを伝えるという説が生まれ、「申(さる)」と「神」が結びつくようになったという説もあります。
猿神信仰の特徴
- 世界各地で見られる: インドのハヌマーン、ギリシャ神話のヘルメスなど、世界各地で猿を神格化する神話や伝説が存在します。
- 自然との共存: 猿神信仰は、自然との共存を重視する思想と深く結びついています。
- 多様な表現: 猿神は、動物の姿のまま神格化されることもあれば、人間と猿の混ざった姿で表現されることもあります。
日本における猿神信仰
日吉大社
日吉大社: 日本で最も有名な猿神信仰の聖地です。
日吉大社は、全国の日枝神社の総本社であり、山王信仰の中心的な神社です。この神社には、大山咋神(おおやまくいのかみ)と猿田彦大神という二柱の神様が祀られており、それぞれが重要な役割を担っています。
大山咋神
- 山の神として: 大山咋神は、山の神として崇められてきました。日吉大社が鎮座する比叡山も、大山咋神の支配下にあると考えられていました。
- 天台宗との関係: 天台宗の開祖である最澄が、比叡山延暦寺を建立する際、大山咋神を山中の守護神として祀りました。このことから、大山咋神は天台宗と深い結びつきを持つ神様となりました。
- 山王権現: 神仏習合の時代には、大山咋神は山王権現と同一視されるようになり、日吉大社は山王権現の総本社として信仰を集めました。
猿田彦大神
- 道祖神として: 猿田彦大神は、道祖神として知られ、道案内の神様として信仰されてきました。
- 天宇受売命との関係: 日本神話では、天宇受売命(アメノウズメノミコト)とともに、天照大神を岩戸から誘い出すために活躍した神様として登場します。
- 猿との関係: 猿田彦大神は、しばしば猿の姿で表されることから、猿を神使とする山王信仰と深く結びついています。
三者間の関係
日吉大社において、大山咋神と猿田彦大神は、以下のような関係にあると考えられています。
- 大山咋神が主神: 大山咋神は、日吉大社の主神であり、山全体を支配する神として崇められています。
- 猿田彦大神が配神: 猿田彦大神は、大山咋神の配神として、道案内や守護神としての役割を担っています。
- 猿が神使: 猿は、猿田彦大神の使いとして、日吉大社を護る神聖な存在とされています。
大山咋神(おおやまくずのかみ)という山の神を祀っており、その神使として猿が崇められています。
日吉大社 - Wikipedia
日吉大社(ひよしたいしゃ)は、滋賀県大津市坂本にある神社。式内社(名神大社)、二十二社(下八社)の一社。かつては日吉社(ひえしゃ)と呼ばれていた。旧社格は官幣大社で、現在は神社本庁の別表神社。境内大宮橋は日本百名橋に選定されている。
全国に約3,800社ある日吉・日枝・山王神社の総本社である。通称として山王権現とも呼ばれる。猿が神使で神猿(まさる)とする。
- 猿廻しとの関係: 猿廻しは、猿を訓練して芸を披露する伝統芸能ですが、そのルーツは猿神信仰に深く関わっていると言われています。
- 地域ごとの信仰: 日本各地で、地域特有の猿神信仰が根付いています。
猿神が象徴するもの
- 知恵と機敏さ: 猿の知性や機敏さを神格化したものです。
- 自然との調和: 自然との共存、自然への畏敬の念を表しています。
- 生命力と再生: 猿の繁殖力や生命力の強さを象徴しています。
このように、猿神は、単なる動物信仰ではなく、自然との共存、生命の尊厳、そして人間の知恵と創造性を象徴する、深遠な意味を持つ信仰です。世界各地で様々な形で発展してきた猿神信仰は、人類の歴史と文化を語る上で重要な要素の一つと言えるでしょう。
神猿(まさる)について
日吉・日枝・山王神社の総本社である滋賀県の日吉大社の神使は、猿です。特に「神猿(まさる)」と呼ばれ、神社の至る所にその姿を見ることができます。
神猿が神使となった理由
- 大山咋神との深い関係: 日吉大社の御祭神である大山咋神は、山の神として信仰されており、山に住む猿は神の使いとして考えられてきました。
- 魔除けの象徴: 猿は、その賢さや機敏さから、魔除けの力があると信じられてきました。
- 縁起の良い言葉: 「まさる」という名前には、「魔が去る」「勝る」といった縁起の良い意味が込められています。
神猿がもたらすご利益
神猿は、様々なご利益をもたらすとされています。
- 家内安全、子授け、安産: 夫婦の神猿像のうち、母親の猿は子宝や安産にご利益があるとされています。
- 商売繁昌、厄除け、良縁: 父の猿は、商売繁盛や厄除け、良縁にご利益があるとされています。
- 勝運: (魔が去る意など)「まさる」という名前から、勝運をもたらすとも考えられています。
神猿を巡る伝説や逸話
神猿を巡る伝説や逸話は数多く存在します。
- 猿廻しとの関係: 日吉大社と猿廻しとの関係は深く、神猿は猿廻しの神としても信仰されてきました。
- 神猿の霊験: 神猿の霊験に関する様々な話が語り継がれています。
日吉大社や日枝神社での神猿の存在
日吉大社を総本山とする日枝神社でも神猿(まさる)は象徴的存在です。
日枝神社(ひえじんじゃ)は山王信仰に基づき比叡山麓の日吉大社より勧請を受けた神社の社号である。
日枝神社と猿の関係
日枝神社の境内には「狛犬」ではなく、「狛猿」が置かれています。猿は御祭神「大山咋神」の使いである事から「神猿」(まさる)といわれています。
「まさる」の語呂が「魔が去る」「勝る」に通じ、「猿」が「えん」と読めることから「良い縁」にあやかれるとして敬われています。・・・
本殿向かって左に子供を抱いた母親の神猿(まさる)、右には父親の神猿(まさる)が置かれています。猿は群れを大切にし、子宝に恵まれ安産であることから「家内安全」「子授け」「安産」を願って母猿を、「まさる」の語呂から「商売繁昌」「厄難消除」「良縁」を願って父猿を撫でると良いといわれています。
日吉大社や日枝神社では、神猿は至る所で見ることができます。
- 狛猿: 本殿の前には、狛犬ではなく狛猿が置かれています。
- 神猿像: 境内には、様々なポーズの神猿像が安置されています。
- 御守り: 神猿をモチーフにした御守りが多数販売されています。
- 日吉大社 西本宮楼門(重要文化財) - 天正14年(1586年)再建。楼門の軒下四隅には神猿が彫られている。
- 東京都千代田区の日枝神社:本殿社殿前に夫婦の神猿像が安置されている
日吉大社を総本社とする日枝神社等の神猿は、単なる猿ではなく、信仰の対象として、そして人々の生活に深く根ざした存在です。その姿は、古来より人々に愛され、様々な願いを託されてきました。
もし日吉大社や日枝神社を訪れる機会があれば、ぜひ神猿にも会ってみてください。きっと何かを感じることができるはずです。
神猿まさるについて
神猿さんは魔除けの象徴
猿は全国各地に生息しておりますが、古来より日吉といえば猿といわれ、魔除けの象徴として大切に扱われるようになりました。「まさる」は「魔が去る」「勝る」に通じ、大変縁起のよい神のお使いです。全国約3,800社の分霊社と神猿
全国には「日吉神社」「日枝神社」また「山王神社」とよばれる日吉大社の神様の御霊みたまをお分けした「分霊社」が約3,800社ございます。それらは方除の神様として、武士がお城や屋敷を建立するにあたり分霊されました。また「山王」とは日吉の神様の別名で、天台宗・比叡山延暦寺の守護神としての性格を意味します。それを「山王信仰」といい、天台宗のお寺の広がりと共に日吉の神様がまつられました。こうして全国に分霊社が増えるに伴い、「日吉さんといえばお猿さん」といわれるほど、魔除けの神猿さんも広く知れ渡りました。
神猿(まさる)と 猿神との違いや関係性
神猿(まさる)と、より広義の概念である猿神は、密接な関係を持ちながらも、いくつかの違いがあります。
神猿(まさる):
- 日吉大社や日枝神社に特化した概念。
- 御祭神である大山咋神の神使として、特定の神社に結びついています。
- 「まさる」という名前から、魔除けや勝利といった具体的なご利益が期待されています。
- 形態は猿の姿をしており、狛犬の代わりに神社に置かれることが多いです。
猿神:
- より広範な概念。
- 猿を神格化したり、神の使いとして崇める、より一般的な信仰形態。
- 様々な地域や文化圏で、異なる形で信仰されてきました。
- 形態は猿だけでなく、人間と猿の混ざった姿など、様々です。
両者の関係性
共通点:
- どちらも猿を神聖視している点。
- 自然崇拝やアニミズム的な要素を持っている点。
- 人々の願いを叶える力があると信じられている点。
違い:
- 信仰の対象の特定性: 神猿は日吉大社や日枝神社に特化しているのに対し、猿神はより広範な概念。
- 具体的な役割: 神猿は御祭神の神使として、具体的な役割を担っている。
- 信仰の形態: 神猿は狛猿として視覚的に表現されることが多いが、猿神は様々な形で表現される。
まとめ
猿神は、単なる動物信仰ではなく、自然との共存、生命の尊厳、そして人間の知恵と創造性を象徴する、深遠な意味を持つ信仰です。世界各地で様々な形で発展してきた猿神信仰は、人類の歴史と文化を語る上で重要な要素の一つと言えるでしょう。
神猿(まさる)は猿神の概念をより具体的にしたもので、日吉大社や日枝神社という特定の場所における信仰の対象と言えるでしょう。
神猿(まさる)は、単なる動物ではなく、人々の願いを叶える力を持つ、神聖な存在として、人々に愛され続けています。
興味深いですよ!「猿神」「神猿」。