モルモットという動物種名を聞いたことがありますよね?
実験動物の代名詞みたいに扱われているあのモルモットのことです。
モルモットの車「モルカー」の日常を描いたストップモーションアニメ『PUI PUI モルカー』(プイプイ モルカー)が映画化されたり、またペットとしても注目されるなど、人気の動物種です。
ところが、モルモットという名前(標準和名)の動物ははいないのです。
そこで、「モルモット」という名称が一般的になったいきさつを調べてみたところ、英語名や標準和名にもいろいろ訳ありであることがわかってきました。
以下の目次に沿って、一般によくモルモットと呼ばれている動物(学名: Cavia porcellus)の命名や「モルモット」という言葉の用例などを深掘りしてみました。
- モルモットという動物はいない!?
- モルモットという和名誕生のいきさつ
- テンジクネズミの英語名や学名そのものにも訳あり!
- テンジクネズミ(モルモット)が、何故「ブタ」なの!?
- テンジクネズミ(モルモット)に、何故「インド(=天竺)」が冠されてるの!?
- 「実験動物」を表す言葉としての「モルモット」の用例・使われ方
- 食用としてのテンジクネズミ(モルモット)を深掘り!
- まとめ
モルモットという動物はいない!?
近年は、動物園で飼育展示されている動物は「標準和名」で種名を紹介することが一般的です。
日本動物園水族館協会の飼育動物検索で、「モルモット」を検索すると、検索結果には「該当する動物は現在飼育されていません。」と表示されます。
◆動物を探す | 動物園と水族館(JAZA・日動水)
https://www.jaza.jp/animal/search
◆日本哺乳類学会「世界哺乳類標準和名リスト」
https://www.mammalogy.jp/list/
一般によくモルモットと呼ばれている動物(学名: Cavia porcellus)は、正式には(標準和名は)「テンジクネズミ」と言います。
モルモットという和名誕生のいきさつ
モルモットという呼び方は、マーモットという別の動物と間違えられて、それがなまったものなのです。
日本語でいう「モルモット」は、マーモットを意味するオランダ語「マルモット (marmot)」に由来する。
1843年(天保14年)最初に長崎にテンジクネズミを持ち込んだオランダ商人が、マーモットと勘違いしたことから生じた呼称である。オランダ語では普通 cavia というが、日本ではオランダ商人の誤謬が広まった。また、英語やオランダ語でいう「marmot(マーモット)」は、山に生息する他の齧歯(げっし)動物、リス科マーモット属、山鼠またはウッドチャックを意味する。
マーモットに関しては「マーモットのいる動物園」を参照ください。
ちなみに、マーモットは、私の大好きなアウトドア(ファッション)のメーカー名・ブランド名のひとつでもあります。
動物種名としてのマーモットより、アウトドアファッションブランドとしてのマーモットのほうが、検索される頻度は多いかもしれませんね。
テンジクネズミの英語名や学名そのものにも訳あり!
東京動物園協会教育普及センターが、2019年の年末(12月29日)に投稿した以下の記事をみていただくとわかるとおり、テンジクネズミ(モルモット)の英名(Guinea pig)や学名(Cavia porcellus)にも、いろいろ訳ありなようです。
亥年と子年のバトンタッチ。テンジクネズミ(モルモット)の英名はGuinea pigで、もちろん pigはブタ。学名はCavia porcellusで porcellusはラテン語で小さいブタの意味。つなぎ役には最適です。 pic.twitter.com/J0dsu2kf3E
— 東京動物園協会教育普及センター (@TZPS_EduCenter) December 29, 2019
英名はGuinea pigですが、アメリカ(USA)では、cavy(ケイビー)とよばれることが多く、その他の英語圏では、「guinea pig(ギニアピッグ)」と呼ばれることが多いようです。
テンジクネズミ(モルモット)が、何故「ブタ」なの!?
テンジクネズミ(モルモット)は、
哺乳綱 Mammalia > ネズミ目(齧歯目)Rodentia > ヤマアラシ亜目 Hystricognathi > テンジクネズミ上科 Caviomorpha > テンジクネズミ科 Caviidae > テンジクネズミ属 Cavia > テンジクネズミ(モルモット) Cavia porcellus
に分類されます。
このゲッシー(齧歯目)であるテンジクネズミ(モルモット)の、
- 学名が、Cavia porcellus(porcellusはラテン語で小さいブタ)
- 英名が、Guinea pig(英語でギニアのブタ)
になっているのは何故なのでしょう?
あっ、中国では豚鼠でした。 pic.twitter.com/EuKYIJ8j2q
— 東京動物園協会教育普及センター (@TZPS_EduCenter) December 29, 2019
WIkipediaによると、テンジクネズミ(モルモット)の学名の種小名が「小さい豚」を意味するporcellusである由縁は、以下の諸説があるとのこと。
<テンジクネズミ(モルモット)の学名の種小名が「小さい豚」を意味するporcellusである由来(諸説)>
- 割合的に大きい頭部や尻尾がなく丸い尻の造形がブタのようだから
- テンジクネズミ(モルモット)の肉の味が豚肉に似ているため
- 新大陸を経由する航海中に新鮮な肉を食べられるように、テンジクネズミ(モルモット)が(豚肉の代替として)船に積み込まれていたことに由来
テンジクネズミ(モルモット)に、何故「インド(=天竺)」が冠されてるの!?
テンジクネズミ(モルモット)の原産地は南米(ペルー南部、ボリビア南部、アルゼンチン北部、チリ北部)で、古代インディオのもとで野生種が家畜化されました。
トキの学名が Nipponia nippon(ニッポニア・ニッポン)であることや、また、アフリカに分布するホロホロチョウの英名がGuinea fowl(Guinea hen)であることからもわかるとおり、動物名への地域名の付与は、その種が分布する地域名が冠されるのが通常です。
ところがテンジクネズミ(モルモット)の標準和名、英名、欧米各国の種名には、南米とは無関係な地域名がよく冠されています。
以下に、まとめてみましたのでご確認ください。
出典:WIkipdia
<南米以外の地域が冠されたテンジクネズミ(モルモット)の名称(例)>
- 西アフリカのギニアが冠された例
- 英語(英名):Guinea pig(ギニアのブタ)
- オランダ語:Guineesch biggetje(ギニアのブタ)
- ギニアが冠された名前の由来(諸説)
- イギリスに初めてこの動物が持ち込まれたときにその持ち込んだ船がアフリカ経由の船であり、当時のヨーロッパ人にとってギニアとは漠然とアフリカ、転じて遠方の地を表す言葉であったため
- 南米のギアナ地方(“Guyana”ガイアナ)の転訛として
- 発見者がギアナ(ガイアナ)とギニアを間違えてしまい、ギアナ・ピッグとすべきところギニア・ピッグと名付けてしまった
- ギニアが冠された名前の由来(諸説)
- インド(東インド)が冠された例
- フランス語:cochon d'Inde(インドのブタ)
- イタリア語:porcellino d’India(インドのブタ)
- ポルトガル語:porquinho da Índia(インドのブタ)
- オランダ語:oost Indische rat(東インドネズミ)
- 標準和名:テンジクネズミ(←オランダ語を翻訳、天竺=インドの鼠)
- インドが冠された名前の由来
- アメリカ大陸、特に中南米の各地域が長らく「インド」の名を使って呼ばれていたという経緯による
- インドが冠された名前の由来
上記、<南米以外の地域が冠されたテンジクネズミ(モルモット)の名称(例)>を作成して私が感じたことは以下の点です。
- (現在でも、カリブ海周辺の島々を「西インド諸島」とよび、先住民を「インディアン」「インディオ」とよぶことからもわかるように)15世紀末コロンブスが「新大陸(とされる)発見」で到達した島々をインドの一部と考えてインディアスとよんだ
このことが、標準和名「テンジクネズミ(天竺鼠)」の誕生(命名は幕末から明治期の博物学者田中芳男氏による)にまで大きくかかわっていたのだなと感じ、学生時代に学んだ世界史・世界地理を思い起こさせてくれたのでした(笑)
「実験動物」を表す言葉としての「モルモット」の用例・使われ方
「実験動物」「実験材料」のことを、モルモットと言う理由については、以下のレファ協の記載を引用します。「実験台として人に利用される人」の例えとして「モルモット」が使われるようになった背景が理解できます。
モルモットは繁殖のしやすさや飼育が容易であること、体内でビタミンCを作れないという人間との共通点があることから、古くから医学や生物学の実験用に多用されてきました。それが現在では実験動物の代名詞のようになっており「実験台にされる人」を“モルモット”と比喩的に表現するようになりました。
ちなみにモルモットの原産地アンデス地方(南アメリカ)では、モルモットは人間のあらゆる病気を治すことができると信じられています。その治療法としては、モルモットを患部にこすりつけたり薬として食べてしまうということもあるようです。
「実験動物」を表す言葉としての「モルモット」の用例としては、以下があげられます。
<「実験動物」を表す言葉としての「モルモット」の用例>
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「・・・『小泉君――Sさんが君のことをモルモットだと言っていましたぜ』こう言いますから、『モルモットとは何だい』と僕が聞いたら、大学の試験室へ行くと医者が注射をして、種々な試験をするでしょう。友達がモルモットで、僕が医者だそうだ――」(出典:家(1910‐11)〈島崎藤村〉)
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treated like a guinea pig:《be ~》モルモット扱いされる。(本人の知らないうちに)実験台にされる。
- play a role as a guinea pig / act as a guinea pig:実験台になる。〇〇としての役割を果たす
- To serve as a guinea pig:(仕事の際に)(彼を)ためにしに仕ってみよう
- treat a person as a guinea pig.:人を実験台に使う、試しに~させてみる
- He used me as a guinea pig.:彼は私を実験台に使った。
- You be the guinea pig. : (初めて作った料理を出す場面で)おいしいかどうか分からないけど。
- Et si je ne veux pas être votre cochon d'Inde?:モルモットにされるのは(被験者やるの)まっぴらごめんだけど。
食用としてのテンジクネズミ(モルモット)を深掘り!
学名の一部に「小さい豚」を意味するporcellusがつけられているテンジクネズミ(モルモット)です。南米の一部地域ではモルモットを「クイ(Cuy)」「クイェ(cuye)」「クリ(curí)」と呼び、現在でも食用にされています。
16世紀にはヨーロッパでもテンジクネズミ(モルモット)が飼育されていた痕跡が残っています。また、17世紀には、体が小さくて持ち運びしやすいモルモットを船旅をする時に生きたまま食料として船に持ち込んでいて、ドイツ語のテンジクネズミ(モルモット)の名「メーアシュヴァインヒェン」(Meerschweinchen)は「海の小さなブタ」の由縁ともいわれています。
食用として船に持ち込まれることも多かったテンジクネズミ(モルモット)ですが、ヨーロッパでは食肉として一般化されることはほぼなかったようです。
そのあたりの経緯は、以下のページに詳しいので参考になさってください。
まとめ
「モルモット」の意味やそもそもの語源、「テンジクネズミ(モルモット)」命名の由縁・背景などについて、深掘りしてみました。
モルモット命名には他の動物種との勘違いが影響を及ぼし、また、テンジクネズミ命名には、コロンブスの新大陸発見で、カリブ海に浮かぶ島々をインドの一部と勘違いしたことが影響していることがわかりました。
また、実験動物の代名詞として以外にも、テンジクネズミ(モルモット)の各国語の命名には、さまざまな背景・経緯があることも確認できました。
興味深いですよ!「モルモット」。