前々回の「生き物にまつわる言葉を深掘り」のテーマは獅子でした。
「獅子」について深掘りリサーチして気づかされたのが、「(唐)獅子」と「狛犬」との関係性・混同の事実でした。
今回の「生き物にまつわる言葉を深掘り」のテーマは、「狛犬」です。
「狛犬」の意味や語源、用例などを深掘りリサーチし、以下の目次に沿ってレポートしていきます。
狛犬とは?
狛犬は、日本の神社や寺院の入り口などで見かける、邪気を払い神を守護する霊獣です。その独特な姿と深い歴史から、多くの人々を魅了してきました。
狛犬(こまいぬ)とは、獅子に似た日本の獣で、想像上の生物とされる。
像として神社や寺院の入口の両脇、あるいは本殿・本堂の正面左右などに一対で向き合う形、または守るべき寺社に背を向け、参拝者と正対する形で置かれる事が多く、またその際には無角の獅子と有角の狛犬とが一対とされる。
飛鳥時代に日本に伝わった当初は獅子で、左右の姿に差異はなかったが、平安時代になってそれぞれ異なる外見を持つ獅子と狛犬の像が対で置かれるようになり、狭義には後者のみを「狛犬」と称すが、現在では両者を併せて狛犬と呼ぶのが一般化している。
狛犬の起源
狛犬の起源は、古代オリエントにまで遡ると考えられています。権力の象徴として崇められていたライオンが、そのルーツと言われています。エジプトのスフィンクスやシンガポールのマーライオン、沖縄のシーサーも、その一例と言えるでしょう。
日本には、飛鳥時代に仏教とともに伝わったと考えられています。当初は、獅子として仏像の両脇に置かれるなど、仏教美術の一部として扱われていました。
狛犬の名前の由来について
「狛犬」という名前の由来は、諸説あり、はっきりとしたことはわかっていません。しかし、一般的に有力とされている説がいくつかあります。
主な説
高麗からの伝来説
日本に伝わった当初は、朝鮮半島(高麗)から来た犬という意味で「高麗犬(こまいぬ)」と呼ばれていました。それが変化して「狛犬」になったという説です。
異国の犬説
「狛」の字が、異国や珍しいものを表す言葉として使われたため、「狛犬」は「異国の犬」という意味になったという説です。
「狛」の字について
「狛」の字自体は、中国では古くから使われていた言葉で、「神獣」や「異国」を意味すると考えられています。
なぜ犬?
狛犬は、見た目からライオンを連想させますが、なぜ「犬」という字が使われているのか疑問に思う方もいるかもしれません。
- 外見: 当初は、ライオンの姿を模倣したものが多く、それが日本に伝わる過程で、犬のように見えたのかもしれません。
- 異国からの動物: 異国から来た珍しい動物を「犬」と呼んだ可能性もあります。
ここまでみてきたように、狛犬の名前の由来は、はっきりとは解明されていません。その中で、「高麗からの伝来」や「異国の犬」といった説が有力です。
「狛」の字が持つ意味や、獅子との違いなどを理解することで、狛犬に対する理解が深まるでしょう。
獅子との混同
日本に伝わった当初は、狛犬と(唐)獅子は区別されていませんでした。どちらも、ライオンをモチーフとした霊獣として扱われていたのです。
しかし、平安時代になると、獅子と狛犬は徐々に異なる存在として認識されるようになっていきます。口を開けて阿形、口を閉じて吽形という対になった姿が定着し、狛犬はより日本の文化に根ざした存在へと変化していきました。
狛犬のいろはを学ぶ |狛犬って千差万別! | 奈良県歴史文化資源データベース「いかす・なら」
日本における「獅子・狛犬」の展開
さて、今わたしたちが目にしている「狛犬」ですが、正確には「獅子・狛犬」と呼びます。上に述べたように、単独の「獅子」は、「獅子」と「狛犬」の対として作られるようになってきました。一般的に、向かって右側に配置され口を開けたものが「獅子」、向かって左に配置され口を閉じたものが「狛犬」とされます。これは前にも書いた平安時代の宮中儀式を記した『延喜式』などにその記述を見ることができます。ただし現場においては、左右が逆転していたり、伝統的に「狛犬」が存在しない「獅子」のみで構成されている地域などもあります。
また「狛犬」独特の特徴としては「角」が生えているということがありますが、この「角」はやがて形骸化してゆき、いつの間にか無くなってしまっているものも多数存在しています。
唐獅子と狛犬の違いに関しては、以下に「獅子についての深掘り」コンテンツを再掲します。
唐獅子と狛犬の違い
神社や寺院の入り口などで見かける狛犬と唐獅子。実は起源や意味合い、外見などに違いがあります。
中国から渡ってきた(唐)獅子と日本で発達した狛犬は、それぞれ別々の空想上の生き物です。狛犬は日本で誕生・進化した霊獣で、中国に狛犬は存在しません
唐獅子は、狛犬よりも古い時代に日本に伝わったと考えられています。
この二つの像は、それぞれ対になって置かれる際に、片方が口を開け、もう片方が口を閉じている姿を見かけることがあります。この口を開けた状態を「阿(あ)」、口を閉じた状態を「吽(うん)」と呼び、この組み合わせが「阿吽の呼吸」という言葉の由来となっています。
現代では、唐獅子と狛犬をまとめて「狛犬」と呼ぶことも多くなっています。
<起源・意味合い>
- 唐獅子:中国から伝来した獅子をモデルにしたもので、狛犬と対になって置かれることが多いです。古くは「唐犬」とも呼ばれていた。魔除けや防火の力があるとされ、主に神社の守護獣として置かれる。
- 狛犬:日本古来から伝わる神獣。日本独自の霊獣で、魔除けや厄除けの役割を担っています。朝鮮半島を経由して中国の獅子(唐獅子)と融合したと考えられています。阿吽(あうん)の呼吸で邪気を祓い、仏法を守護するとされ、主に仏教寺院の守護獣として置かれる。
<外見>
狛犬と唐獅子の見分け方は、一概にこうとは言えないのが現状です。口の開き方や角の有無が一般的な見分け方ですが、時代や地域によって例外も多いため、複数の要素を総合的に判断する必要があります。
- 一般的な見分け方
- 口の開き方:
- 唐獅子:口を開けている(=阿: 宇宙の始まり、すべてのものの始まり)ことが多いです。
- 狛犬:口を閉じている(=吽: 宇宙の終わり、すべてのものの終わり)ことが多いです。
- 角:
- 唐獅子:角がないことが多いです。
- 狛犬:角があることが多いです。
- 口の開き方:
鎌倉時代以降は、簡素化が進み、角がない狛犬や口を閉じた唐獅子も現れました。また、地域によっては、独自のスタイルを持つ狛犬や唐獅子も存在するため、口の開き方と角の有無だけでは必ずしも区別できない場合があります。
- より詳しく見分けるポイント
- 体格:唐獅子は、狛犬に比べて体ががっしりしており、筋肉質な印象です。
- しっぽ:唐獅子のしっぽは、先端が丸みを帯びていることが多いです。
- 顔:唐獅子の顔は、ライオンをモデルにしており、たてがみがあったり、口角が上を向いていたりすることがあります。
まとめ
「狛犬」の意味や語源、用例などについて、深掘りしてみました。
狛犬は、古代オリエントに起源を持ち、日本に伝わってから独自の進化を遂げた霊獣です。獅子との混同や、地域ごとの特徴など、その歴史は複雑で興味深いものです。
興味深いですよ!「狛犬」。