「つくねパパの生き物探訪」記事の中に、「オオスカシバのいる動物園」があります。
オオスカシバといえば、その幼虫が我が家のクチナシの葉を食べつくす「害虫扱い」していた蛾ですが、この記事執筆時に、そのエビフライにような鱗粉のない独特な蛾について「オオスカシバの擬態のモデルやその目的はなんなの?」と疑問がわいてきました。
そこで、「擬態」「カモフラージュ」をテーマに、今回は「生き物にまつわる言葉を深掘り」してみます。
以下の目次に沿って、「擬態」「カモフラージュ」を深掘りリサーチした結果を記載します。
擬態とカモフラージュとの違い
カモフラージュと擬態は、どちらも生物が周囲の環境に溶け込むための戦略です。意味するところは「カモフラージュ」より「擬態」のほうが広義であり、「擬態」の分類のうち「隠蔽的擬態」が「カモフラージュ(Camouflage)」にほぼあたると考えてよさそうです。
カモフラージュの概要
カモフラージュの概要を以下に箇条書きします。
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目的: 捕食者に見つかりにくくすること、または獲物に気づかれずに近づくこと。
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手法: 形状、色、模様などを周囲の環境に合わせることで、視覚的に目立たなくする。
- 例:チョウが木の葉に擬態する、カメレオンが周囲の色に合わせる、ヘビが枯れ葉の中に隠れる
擬態の概要
- 目的: 特定の生物や物体に似せることで、何らかの利益を得ること。
- 手法: 形状、色、模様、行動などを他の生物や物体に模倣する。
擬態の分類:
擬態とは、生物が他の生物や環境に姿を似せることで、生存や繁殖の有利を図る適応戦略です。様々な種類の擬態が存在し、それぞれが巧妙な生存戦略として機能しています。大きく分けると、擬態は隠蔽的擬態と標識的擬態に分類されます。
隠蔽的擬態 (Camouflage)
周囲の環境に溶け込み、目立たないようにすることで捕食者から見つかりにくくする、または獲物に気づかれにくくする擬態です。
- 保護色: 周囲の背景に合わせた体色を持つことで、視覚的に隠蔽する。
- 形状や模様: 形や模様を、周囲にある物体(葉、枝、石など)や他の生物に似せる。
- 行動: 動きのパターンや姿勢を周囲の環境に合わせることで、より効果的に隠れる。
※攻撃擬態:
隠蔽的擬態 (Camouflage)のうち、捕食者が獲物に近づくために、無害なものを模倣(カモフラージュ)する擬態を「攻撃擬態」と呼びます。
標識的擬態 (Mimicry)
目立つ特徴を持つことで、捕食者や獲物を欺く擬態です。標識的擬態には、以下のようなタイプがあります。
- ベイツ型擬態: 無害な生物が、毒性を持つ他の生物に姿を似せることで、捕食者から身を守る。
- ミュラー型擬態: 複数の毒性を持つ生物が、互いに似た警告色や模様を持つことで、捕食者から身を守る。
- 攻撃擬態: 捕食者が獲物に近づくために、無害なものを模倣する。
- ファーブル型擬態: 他の生物の行動や痕跡を模倣する。
- 擬態環: 複数の種が複雑に擬態関係を結ぶ。
以下に、主な擬態の分類について、深掘りリサーチしか結果を記載して、「擬態」と「カモフラージュ」の違いにも言及していきます。
隠蔽的擬態 ≒ 自然界におけるカモフラージュ
隠蔽的擬態について、事例を交えて解説します。
隠蔽的擬態とは?
隠蔽的擬態とは、生物が周囲の環境や他の生物に似せることで、捕食者から見つかりにくくする、あるいは逆に獲物に気づかれにくくする戦略のことです。いわば、自然界における「カモフラージュ」と言えるでしょう。
隠蔽的擬態の特徴:
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目立たない: 周囲の環境や他の生物と区別がつきにくい色や形、模様をしている。
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保護色: 背景の色や模様に合わせた体色を持つことで、視覚的に隠蔽する。
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形状や模様: 形や模様を、周囲にある物体(葉、枝、石など)や他の生物に似せる。
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行動: 動きのパターンや姿勢を周囲の環境に合わせることで、より効果的に隠れる。
- 目的:
- 捕食回避: 捕食者に見つかりにくくすることで、捕食されるリスクを減らす。
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捕食成功: 獲物に気づかれにくくすることで、捕食の成功率を高める。(≒攻撃擬態)
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隠蔽的擬態の事例
1. 動物の擬態
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昆虫:
葉っぱに擬態: コノハムシのように、葉っぱそっくりの形や色をして、植物の葉に紛れる。
木の枝に擬態: シャクトリムシのように、木の枝のように体を伸ばし、じっとしている。
鳥の糞に擬態: ガの幼虫の中には、鳥の糞に似た模様をしているものがいる。
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魚:
海底の岩に擬態: カサゴのように、体の色や模様を海底の岩に合わせ、じっとしている。
海藻に擬態: ウミタナゴのように、海藻に似た形状や色をして、海藻の中に隠れる。
2. 植物の擬態
枯葉に擬態: 枯葉のような色や形をした植物は、周囲の枯葉の中に紛れて、動物に食べられにくくなる。
3. その他
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卵の擬態: 鳥の卵は、巣の周りの環境に似た色や模様をしていることが多い。
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巣の擬態: 鳥の巣が、周囲の環境に溶け込むような色や形をしていることがある。
攻撃擬態 ≒ 獲物に近づくためのカモフラージュ
隠蔽的擬態との違い
先ほど説明した隠蔽的擬態が、周囲に溶け込んで目立たないようにする擬態であるのに対し、攻撃擬態は、獲物や宿主を騙して捕食したり、寄生したりするため「目立つ特徴を持つ」擬態です。いわば、「獲物に近づくためのカモフラージュ」と言えるでしょう。
攻撃擬態の目的と特徴
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捕食: 獲物に気づかれずに近づき、捕食を成功させる。
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寄生: 宿主に気づかれずに近づき、寄生を成功させる。
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擬態対象: 無害な生物、あるいは魅力的なもの(例えば、花の蜜やメス)を模倣する。
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戦略: 待ち伏せ、接近戦など、様々な戦略がある。
攻撃擬態の例
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カマキリ: 花や葉に擬態し、近づいてくる昆虫を捕食する。
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オオカミ: 狼は群れで狩りをする際に、他の動物の群れに紛れ込むことがある。
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特定の魚: 海底の岩や海藻に擬態し、小魚を捕食する。このような隠蔽的擬態での攻撃擬態の名人として、以下のような魚が挙げられます。
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カサゴの仲間: 岩にそっくりな体色や形状をしていて、じっと動かずに獲物が近づくのを待ちます。
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ハゼの仲間: 海藻の中に隠れて、通りかかった小魚を素早く捕まえます。
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オコゼの仲間: 海底の岩に擬態し、毒のある棘で獲物を仕留めます。
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ある種のラン: メスの昆虫に擬態し、オスの昆虫を誘引して受粉を促す。
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オフリス属: ヨーロッパに分布するこの属のランは、特定のハチのメスにそっくりな花を咲かせます。色や形だけでなく、フェロモンまで模倣することで、オスのハチを完全に騙し、交尾行動を促します。他のランも、ハチやアブなどの昆虫に擬態することで、花粉を運んでもらっています。
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ペッカム型擬態
攻撃擬態は、発見者の一人であるペッカム夫妻の名前にちなんで、「ペッカム型擬態」とも呼ばれます。このタイプの擬態は、自然界において非常に巧妙かつ多様な形で見られます。
ベイツ型擬態とは?
ベイツ型擬態について詳しく解説します。
ベイツ型擬態とは、無害な生物が、毒性を持つ他の生物に姿を似せることで、捕食者から身を守るための擬態のことです。いわば、「毒を持っているフリをする」戦略と言えるでしょう。
ベイツ型擬態の特徴:
- 無害な模倣者: 毒性を持たない種が、毒性を持つ種を模倣する。
- 警告色: 毒性を持つ種が持つ、捕食者に危険を知らせる鮮やかな色や模様を模倣する
- ベイツ型擬態の目的:捕食者から身を守るため。
- ベイツ型擬態のモデル:模倣の対象となる毒性を持つ種。
ベイツ型擬態の例
- 蝶: 無毒な蝶が、毒を持つ蝶の鮮やかな模様を模倣する。
- ヘビ: 無毒なヘビが、毒ヘビの模様を模倣する。
- 昆虫: 無毒な昆虫が、スズメバチなどの毒を持つ昆虫の模様を模倣する。
ベイツ型擬態が成立する条件
ベイツ型擬態が効果的に機能するためには、いくつかの条件が必要です。
- モデルとなる毒性種が多いこと: 捕食者がモデルとなる毒性種を「危険な存在」として学習するためには、ある程度の数の個体が必要となります。
- 模倣者が少ないこと: 模倣者が多すぎると、捕食者は模倣者も安全ではないと学習し、擬態の効果が薄れてしまいます。
- 模倣が完全であること: モデルとの違いが少なければ少ないほど、捕食者は模倣者をモデルと誤認しやすくなります。
ベイツ型擬態と他の擬態との違い
- ベイツ型擬態: 無害な種が有毒な種を模倣する。
- ミュラー型擬態: 複数の毒性を持つ種が、互いに似た警告色を持つ。
- 攻撃擬態: 捕食者が獲物に近づくために、無害なものを模倣する。
ミュラー型擬態について
ミュラー型擬態とは、複数の毒性を持つ生物が、互いに似た警告色や模様を持つことで、捕食者から身を守るための擬態のことです。
ベイツ型擬態が無害な生物が有毒な生物を模倣するのに対し、ミュラー型擬態は、複数の毒性を持つ生物同士が協力して捕食者を避けるという点が特徴です。
ミュラー型擬態の特徴
- 複数の毒性種: 2種以上の毒性を持つ生物が参加する。
- 共通の警告色: 互いに似た派手な色や模様を持つ。
- 捕食者へのシグナル: 捕食者に「危険な生物」であることを知らせる。
- 相互利益: それぞれの種が、捕食者から攻撃されるリスクを減らすことができる。
ミュラー型擬態の例
- チョウ: 毒を持つ複数の種類のチョウが、互いに似た模様を持つ。
様々な種類のチョウが、互いに似た派手な模様や色を持つことで、捕食者から身を守っています。以下に、いくつかの例を挙げます。-
ドクチョウ属: 南北アメリカ大陸の熱帯地域に生息するドクチョウ属のチョウは、ミュラー型擬態の典型的な例です。この属の多くの種が、互いに似た黒と赤、または黒と黄色の縞模様を持っています。これらのチョウは、体内に毒性のアルカロイドを蓄積しており、捕食者に不快な経験を与えることで身を守っています。
【南北アメリカ大陸の熱帯域に生息するドクチョウ属(Heliconius )のチョウは、ミューラー型擬態の典型的な例としてよく挙げられる。】 -
マダラチョウ科: マダラチョウ科のチョウも、ミュラー型擬態の例としてよく知られています。この科の多くの種が、黒と白の縞模様や斑点模様を持っています。これらのチョウも、体内に毒性の物質を含んでおり、捕食者から身を守っています。
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- カエル: 毒を持つ複数の種類のカエルが、互いに似た色を持つ。
ミュラー型擬態のメリット
- 学習効果の強化: 捕食者は、一度ある種の毒性生物を捕食して不味い経験をすると、その種だけでなく、似た模様を持つ他の種も避けるようになる。
- 生存率の向上: それぞれの種が、捕食されるリスクを減らすことができるため、生存率が向上する。
ミュラー型擬態が成立する条件
ミュラー型擬態が効果的に機能するためには、いくつかの条件が必要です。
- 共通の捕食者: 複数の種が、同じ捕食者から捕食される必要がある。
- 十分な毒性: 捕食者に不快な経験を与えるだけの毒性を持つ必要がある。
- 類似した警告色: 捕食者が異なる種を同一視できる程度に、警告色が似ている必要がある。
ベイツ型擬態とミュラー型擬態の違い
ベイツ型擬態とミュラー型擬態の違いを以下に一覧表にしました。
ミュラー型擬態は、生物が共同で生存戦略を進化させた興味深い例です。複数の種が協力することで、それぞれの種が生存率を高めることができるという点で、自然界の巧妙な仕組みと言えるでしょう。
【ミュラー型擬態とベイツ型擬態の違い】
特徴 |
ベイツ型擬態 | ミュラー型擬態 |
---|---|---|
模倣する種(主体) | 無害な種 | 毒性を持つ種 |
模倣のモデル種 | 毒性を持つ種 | 他の毒性を持つ種 |
目的 | 捕食者から身を守る | 捕食者から身を守る |
相互関係 | 片方が一方的に利益を得る | 互いに利益を得る |
まとめ
「擬態」や生き物の「カモフラージュ」について、ここまで深掘りリサーチ結果をレポートしてみました。カモフラージュと擬態の違いをざっくり説明すると、
- カモフラージュ: 周囲に溶け込んで目立たなくする
- 擬態: 特定の生物や物体に似せることで、何らかの利益を得る
となり、どちらかと言うと
- カモフラージュ: 周囲の環境との一体化を目指す
- 擬態: 特定の対象との類似性を追求する
といった違いがあります。ただし擬態の方がカモフラージュより広義なので、隠蔽的擬態がカモフラージュを表していて、隠蔽的擬態のうち捕食などを目的とする攻撃擬態も「攻撃擬態 = 獲物に近づくためのカモフラージュ」と捉えて大方間違いないように思いました。
より理解を深めるうえで、
- 目的: 隠れるのか、他のものを騙すのか
- 対象: 環境全体なのか、特定の生物や物体なのか
- 手法: 形状、色、模様だけでなく、行動も含まれる
これらの違いを理解することで、自然界で見かける様々な生物の巧妙な生存戦略をより深く理解することができそうです。
興味深いですよ!「カモフラージュ」と「擬態」。