今回の「生き物にまつわる言葉を深掘り」のテーマは、「ヨシキリザメ」です。
NHKの「チコちゃんに叱られる!」で、はんぺんの素材として真っ先にあげられていたヨシキリザメ(英名:blue shark)です。番組ではヨシキリザメのほかアオザメやスケトウダラもはんぺんの素材としてあげられていました。
アオザメとヨシキリザメのそれぞれの英名と学名は以下の通りです。
和名 |
英名 |
学名 |
ヨシキリザメ |
Blue Shark |
Prionace glauca |
アオザメ |
Shortfin mako shark |
Isurus oxyrinchus |
今回は、アオザメではなくヨシキリザメ(Blue Shark)を深掘りしてみました。
- ヨシキリザメの名の由来
- はんぺんの主要原料としてのヨシキリザメ
- ヨシキリザメの分類学的特徴
- 生態と生物学的特徴
- 広大な海洋生態系における高次捕食者の役割
- 保全状況
- ヨシキリザメのいる水族館は?
- まとめ
ヨシキリザメ(学名:Prionace glauca、英名:Blue Shark)は、世界中の熱帯から亜寒帯にかけての外洋域に広く分布する大型のサメであり、その鮮やかな藍青色の体色から英名「Blue Shark」としても広く知られています 。
ヨシキリザメ (葦切鮫、英名:Blue Shark、学名:Prionace glauca)はメジロザメ科に属するサメ。地方名はアオブカ・ミズブカ・アオタ・アオナギ・オバサン・オイランなどがある。
本種のみでヨシキリザメ属 Prionace を形成する(単型)。
ヨシキリザメに関する一般的な関心事である「名の由来」「はんぺんの材料としての利用」「分類」という主要な疑問に深く踏み込みます。
これに加え、その生物学的特徴、広範な生態、現在の資源状況、そして国際的な保全の動向に至るまで、多角的な視点から詳細な情報を提供します。
ヨシキリザメの名の由来
ヨシキリザメの和名および英名には、その生物学的特徴や人間との歴史的な関わりが反映されています。特に和名には複数の有力な語源が存在し、その背景には日本の文化的な側面も垣間見えます。
和名「ヨシキリザメ」の語源:鳥類「ヨシキリ」との関連性
ヨシキリザメの和名「ヨシキリザメ(葭切鮫)」の由来の一つとして、その形態が鳥類のヨシキリ(葭切)に似ているという説が挙げられます。
この説によれば、ヨシキリザメは頭部が尖っており、眼が大きく、そして胸びれが長いという特徴を持っています。
これらの形態的な類似点が、水辺に生息する鳥であるヨシキリの姿を連想させたことから、この名が付けられたとされています。
この命名法は、古くから日本の自然観察者が生物の形態的な特徴を捉え、既存の生物名や身近な事象に重ね合わせて名を付けるという慣習を反映しています。
もう一つの語源:「足切り鮫」としての歴史的背景とフカヒレ利用
もう一つの有力な和名の語源は、「足切り鮫(あしきりざめ)」に由来するという説です。
この説は、ヨシキリザメが高級食材であるフカヒレ(鱶鰭)の主要な原料として古くから利用されてきた歴史と深く関連しています。
漁獲されたヨシキリザメは、そのヒレが切り取られてフカヒレとして加工されることが一般的でした。
ここで、「鰭は魚にとっての足である」と見立てられ、その「足を切り取る」という行為から「足切り」と呼ばれたことが語源とされています。
この「足切り」という呼び名が、現在の「ヨシキリ」に転訛した背景には、日本語における音韻的な変化と文化的な配慮があったと考えられています。
日本語では、「あし(悪し)」という言葉が「悪い」という意味に通じるため、縁起を担ぎ「よし(善し)」という言葉に置き換えられる慣習がありました。植物の「葦(あし)」を「よし」と呼ぶことと同様に、「足切り」も「ヨシキリ」へと変化したとされています。
この語源は、ヨシキリザメが単なる自然界の生物としてだけでなく、古くから日本の水産業、特にフカヒレ産業において経済的に重要な役割を担ってきた歴史的背景を強く示唆しています。
名前自体が、生物学的観察と、経済的利用を含む人間と種の長く深い相互作用の歴史を反映する遺物となっているのです。
ヨシキリザメの漢字表記が「葦切鮫」や「葭切鮫」が用いられる訳
「足切り鮫」が転じて「ヨシキリ鮫」になったという説を支持するならば、和名の漢字表記は「善し切り鮫」となる方が、その語源の意図に沿っているように思えますね。
しかし、実際の漢字表記としては「葦切鮫」や「葭切鮫」が用いられています。
これにはいくつか理由が考えられます。
当て字の慣習:
日本語の和名には、音に合わせて漢字を当てる「当て字」の慣習が古くからあります。「あし」を「よし」と転じた後、「よし」の音に合う漢字として、当時身近な植物である「葦(アシ)」や「葭(ヨシ)」が選ばれた可能性が高いです。漢字本来の意味よりも音を重視した結果と言えるでしょう。
「悪し」を避ける:
「足切り」の「足」が「悪し」に通じるのを避けるために「よし」という響きを選んだという経緯は理解できます。しかし、その「よし」をあえて「善し」という具体的な意味を持つ漢字で表記するよりも、単に「よし」という音を表すために「葦」や「葭」を選んだ方が、より自然で忌避感のない表記になったのかもしれません。
形態的特徴との関連性:
「ヨシキリザメの命名の由来のひとつに、鳥類のヨシキリににているとの説がある」という点も、後付けや併存的な理由として影響している可能性も否定できません。
もし、その特徴が広く認識されていたなら、「葦」という漢字が、植物としての「葦」だけでなく、鳥の「ヨシキリ」を連想させるためにも好都合だったのかもしれません。
このように、日本語の和名には、単純な語源だけでなく、当て字の慣習や語呂合わせ、忌み言葉を避ける意図、さらには後付けの連想などが複雑に絡み合って形成されることがよくあります。「ヨシキリザメ」もその一例と言えるでしょう。
英名「Blue Shark」の由来と体色の特徴
ヨシキリザメの英名は、その顕著な体色に由来しています。
英語圏では、その鮮やかな体色から「Blue shark」「great blue shark」「blue whaler」などと呼ばれています。
ヨシキリザメの背側は鮮やかな藍青色(インディゴブルー)をしており、腹側は明確な白色とのコントラストを呈しています。
この背腹の体色の違いは、外洋性のサメに多く見られる「カウンターシェーディング(counter-shading)」と呼ばれる保護色の一種です。これは、上空から見ると暗い海の色に溶け込み、下方から見ると明るい水面に溶け込むことで、捕食者や獲物から自身の姿を隠すのに役立つ適応戦略です。
また、死後時間が経過すると、この鮮やかな藍青色は灰色へと変化する特性も持っています。この美しい体色から、「世界で最も美しいサメ」と称されることもあります。
はんぺんの主要原料としてのヨシキリザメ
ヨシキリザメは、日本の伝統的な練り製品である「はんぺん」の独特な食感を生み出す上で不可欠な主要原料の一つです。
その利用には、科学的な特性と歴史的な背景が深く関わっています。
はんぺんにおけるヨシキリザメの利用実態と歴史的背景
はんぺんの主要な材料として、ヨシキリザメのすり身が広く用いられていることは、練り製品業界では「ごく当たり前の知識」とされていますが、一般消費者にはあまり知られていない事実です。
この利用は、現代の食品加工技術だけでなく、古くからの資源の有効活用という歴史的背景に根ざしています。
はんぺんは江戸時代にはすでに食べられていたとされており、当時、江戸湾(東京湾)周辺ではサメ(特にホシザメなど)が大量に漁獲されていました。
フカヒレが幕府の重要な輸出品として取引されていた一方で、残ったサメの身も無駄なく利用しようとする工夫が求められました。
このような背景から、サメの身をすり身にして加工するはんぺんが誕生したという説があります。かつてはサメ肉だけで「はんぺん」が作られていた時代もあり、特に東京や関東地方で発展した食文化であるとされています。
サメ肉がはんぺんの原料として選ばれた理由の一つに、その保存性の高さがあります。
サメの肉は、他の魚肉に比べてアンモニアを含むため、日持ちが良いという特性を持っています。
冷蔵技術が未発達だった江戸時代において、この特性は非常に有利であり、海から遠い内陸の地域でもサメ肉が消費されることを可能にし、特定の食文化(例えば栃木県の「モロ」など)の形成にも寄与しました。
これは、単に「多く獲れたから利用した」というだけでなく、その肉質が持つ機能的利点が、特定の食文化の地理的広がりを支えた重要な要因であったことを示唆しています。
ふわふわ食感を生み出す科学的理由:筋原線維の特性
はんぺん特有の「ふわふわ」とした柔らかい食感は、ヨシキリザメのすり身の科学的な特性に大きく依存しています。
ヨシキリザメなどのサメ類のすり身は、その筋原線維が細く、空気を抱き込みやすい性質を持っていることが確認されています。
この独特の特性により、はんぺんの製造過程で多くの大きな気泡が生地内に取り込まれ、それらの気泡が相互に接続して組織を形成します。
この気泡を豊富に抱き込んだ構造が、はんぺんの軽やかで柔らかな食感を生み出しているのです。
電子顕微鏡を用いた観察でも、はんぺんは多くの気泡を持つ構造であることが確認されており、これは気泡が少なくたんぱく質線維が密に絡まった構造を持つかまぼこなどの他の練り製品とは明確に異なる点です。
ヨシキリザメの筋原線維の特性が、はんぺんの独特なテクスチャーの主要な要因であり、他の練り製品との差別化要因となっているのです。
はんぺん製造における他の主要原料との組み合わせ
はんぺんの「ふわふわ」食感は、ヨシキリザメのすり身単独で実現されるわけではありません。練り製品によく使われるスケトウダラのすり身が主原料として加えられることで、練り製品としての基本的な弾力と風味を形成します。
さらに、副原料として、泡立ちやすい卵白や、粘性があり柔らかい食感にも寄与するヤマイモが加えられます。これらの副原料は、ヨシキリザメのすり身が持つ空気を抱き込む性質をさらに強化し、はんぺんのふわふわ感を一層引き立てる役割を果たしています。
これらの主原料と副原料の組み合わせ、そして独自の製法が、はんぺんの独特な食感の秘密を構成しているのです。
気仙沼におけるサメ肉加工業の役割
宮城県気仙沼市は、日本におけるサメの水揚げと加工の主要拠点として知られています。現在、気仙沼に水揚げされるサメは、ヨシキリザメやモウカザメが主体となっています。
気仙沼におけるフカヒレの製造は江戸時代末期に始まり、明治時代にはサメ肉を利用したちくわやかまぼこなどの練り製品製造も盛んになり、全国に出荷されるほどでした。
気仙沼に多くのサメが水揚げされる理由としては、近海マグロやメカジキの延縄漁業が盛んであり、その過程でサメも混獲されること、そしてフカヒレをはじめとするサメ加工業が歴史的に発展し、漁獲されたサメの積極的な受け皿となってきたという経緯があります。
現在も気仙沼では、サメ肉がすり身などに加工され、はんぺんやかまぼこなどの主要原料として全国のメーカーに供給されており、サメは地域に根付いた文化の一部として、その経済を支える重要な存在となっています。
ヨシキリザメの分類学的特徴
ヨシキリザメは、生物学的な分類体系の中で明確な位置づけがなされています。その学名と上位分類は、他の生物種との関係性を示し、特に属レベルでの独自性は、その進化上の特異性を浮き彫りにします。
学名:Prionace glauca
ヨシキリザメの学名はPrionace glaucaです。
学名は、国際的に生物種を一意に識別するための標準的な名称であり、世界中の科学者が共通の理解を持つための基盤となります。この学名が示すように、ヨシキリザメは特定の属と種に分類されます。
上位分類:メジロザメ目メジロザメ科
ヨシキリザメは、軟骨魚綱(Chondrichthyes)に属する海産魚であり、その上位分類はメジロザメ目(Carcharhiniformes)メジロザメ科(Carcharhinidae)です。
メジロザメ目は、世界中の海洋に広く分布する多様なサメ種を含む、最も大きなサメ目の一つです。
この目には、ホホジロザメやイタチザメなど、多くのよく知られたサメが含まれます。
メジロザメ科は、その中でも特に広範な分布と形態的多様性を持つグループであり、多くの一般的なサメ種がこの科に分類されています。
ヨシキリザメ属の単型性について
ヨシキリザメは、ヨシキリザメ属(Prionace)において、本種のみで属を形成する「単型(monotypic)」であることが特徴です。
これは、ヨシキリザメがその属の中で唯一の現存種であることを意味します。
この事実は、ヨシキリザメが進化の過程で、他の近縁種との分岐が古く、独自の進化経路を辿ってきた可能性を示唆しています。その形態的特徴、例えば非常に長い胸鰭や独特の歯の形状などが、他のメジロザメ科の種とは一線を画すほど特異であることの裏付けとなるかもしれません。
生物学的観点から見ると、単型属であることは、その種が持つ遺伝的多様性や適応戦略が、他の多様な種を含む属に比べて限定的である可能性も示唆します。
もしその種が特定の環境変化に対して脆弱である場合、属全体が影響を受けるリスクが高まる可能性があります。これは、その分類に生物学的な重要性を加える要素となります。
生態と生物学的特徴
ヨシキリザメは、広大な海洋を回遊する高次捕食者であり、その生態と生物学的特徴は、外洋生態系におけるその重要な役割を反映しています。
生息域と分布
ヨシキリザメは、全世界の熱帯から亜寒帯にかけての外洋域に広く分布しています。
この広範な分布は、本種が様々な海洋環境に適応できる能力を持っていることを示しています。特に、北太平洋の亜寒帯境界付近では生物量が高く、この海域における表層生態系の主要構成種の一つとなっています。
生息水深は海表面から水深350mの範囲が一般的ですが、最大で600mまで潜ることが知られています。
好む水温は12〜20℃とされており、これは広範囲な温度帯に適応できることを示唆しています。
回遊
ヨシキリザメは、高度な回遊性を持つことで知られており、長距離の transoceanic な移動を行います。
この広範な回遊は、外洋の高次捕食者にとって極めて重要な適応戦略です。
これにより、獲物の集中域を追跡し、多様な摂餌場にアクセスし、そして適切な繁殖・生育場を利用することが可能になります。
北太平洋では、詳細な回遊モデルが提唱されています。それによると、本種は北緯20度付近の海域で初夏に交尾し、約1年間の妊娠期間を経た後、北緯30度以北の海域で出産します。
生まれた幼魚は北緯40度付近の亜寒帯境界を生育場として成長し、成熟すると温帯域へと移動するというパターンが確認されています。
大西洋においても季節回遊が確認されており、その移動パターンは個体差が大きく、性別や成長段階によって異なることが示されています。
この移動性は、その広範な分布の主要な要因であると同時に、様々な国際漁業で頻繁に混獲される原因ともなっており、複雑な資源管理の課題を引き起こしています。
形態的特徴
ヨシキリザメは、その体型と体色に特徴的な美しさを持っています。
体型と体色:
体はほっそりとした流線型で、口先(吻部)が尖り、眼が大きく、非常に長い胸びれを持つことが特徴です。
胸びれの長さは、吻端から最終鰓裂までの距離に匹敵するほどであり、その優雅な遊泳を可能にしています。
背側は鮮やかな藍青色(インディゴブルー)で、腹側は白色のコントラストを呈しており、この体色から「世界で最も美しいサメ」と称されることもあります。死後時間が経つと、この鮮やかな体色は灰色に変化する特性も持ちます。
体長と体重:
全長は最大で4mに達しますが、通常は2〜3mの個体が多く見られます。
体重は最大で205kgに達するとされています。出生時の体長は35〜50cm程度です。
歯の構造:
両顎歯は異形であり、上顎歯は三角形で先端が強く湾曲し、縁には鋸歯状の構造が見られます。一方、下顎歯はより細かく鋸歯状で、上顎歯よりも対称的な形状をしています。
食性
ヨシキリザメは高次捕食者であり、主にイワシ類、サバ、イカ類などの小型の硬骨魚類や頭足類を好んで捕食します。
夜間に活発に摂餌する傾向がありますが、24時間を通して捕食行動が見られることもあります。
獲物の群れに集まって摂餌することもあり、その効率的な捕食行動は外洋生態系における食物連鎖の上位に位置することを裏付けています。
繁殖様式
ヨシキリザメは胎生であり、胎盤を形成して母体内で胎児を栄養供給する繁殖様式を持っています。妊娠期間は9〜12か月とされています。
産仔数は雌のサイズによって大きく異なり、4〜135尾と非常に幅がありますが、平均は約35尾とされています 3。出産は主に夏または春に行われます。
雄は4〜6年、体長182〜281cmで性成熟し、雌は5〜7年、体長221〜323cmで性成熟します。
興味深いことに、雌は卵殻腺に精子を長期間保存する能力を持っていることが知られています。
北太平洋では、北緯20度付近で交尾し、北緯30度以北の海域で出産するという繁殖回遊パターンが確認されています。
寿命
ヨシキリザメの寿命は、20年以上と考えられています。この比較的長い寿命は、その大型の体と高次捕食者としての生態的役割と整合性があります。
広大な海洋生態系における高次捕食者の役割
ヨシキリザメは、広範な分布、高度な回遊性、そして多様な形態的・生理的特徴を持つ高次捕食者です。
その広範な分布と高度な回遊性は、その食性と繁殖戦略(多数の仔を産む胎生)と密接に関連しています。
広大な外洋で効率的に餌を確保し、適切な繁殖・生育場を利用するために、長距離移動能力が進化的に獲得されたと考えられます。
この移動性は、その広範な分布の主要な要因であると同時に、様々な国際漁業で頻繁に混獲される要因ともなっており、複雑な資源管理の課題を引き起こしています。
高次捕食者としてのヨシキリザメは、外洋生態系のバランスを維持する上で重要な役割を担っています。
その個体数の変動は、下位栄養段階の生物群集に連鎖的な影響を及ぼす可能性があります。また、その広範な回遊は、国際的な資源管理の課題を提起します。
異なる国の漁業が同じ資源を共有するため、国際協力が不可欠となります。
産仔数の幅広さ(4~135尾)は、高い繁殖可塑性を示唆し、これがその回復力に寄与する可能性がありますが、高い漁獲圧が続けば、高い繁殖力をもってしても乱獲のリスクは依然として大きいままです。
資源状況と利用
ヨシキリザメは、その広範な分布と高い漁獲量から、世界の水産業において重要な位置を占めていますが、その利用と保全の間には複雑なバランスが存在します。
漁獲と利用
ヨシキリザメは、世界の海洋で最も頻繁に漁獲される大型サメの一つであり、その漁獲量は上昇傾向にあります。2007年には45,000トンに達した記録もあります。
主にマグロやカジキを対象とした延縄漁業において、意図せず混獲されることが多い種です 6。しかし、日本においては、東北地方(特に気仙沼、石巻、塩釜など)を中心に、サメ類を漁獲対象とした延縄漁業も営まれており、多数のヨシキリザメが水揚げされています。
ヨシキリザメの利用形態は多岐にわたります。最も価値が高いのは高級食材であるフカヒレであり、特に宮城県気仙沼市はフカヒレの主要産地として世界的に知られています。
フカヒレ以外の部位も有効活用されており、肉は練り製品(はんぺん、かまぼこ、ちくわなど)の原料として広く利用されています。
さらに、皮はコラーゲンやゼラチンの抽出に利用され、軟骨はコンドロイチンやグルコサミンなどのサプリメント原料としても利用されています。このように、ヨシキリザメは全身が余すことなく利用される、経済的に価値の高い魚種です。
保全状況
ヨシキリザメの保全状況は、その広範な分布と高い漁獲圧から、国際的な関心を集めています。
IUCNレッドリストにおける評価: IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにおいて、ヨシキリザメは地球全体としては「準絶滅危惧種(Near Threatened: NT)」に分類されています。
このカテゴリーは、「現時点での絶滅危険度は小さいものの、生息条件の変化によっては『絶滅危惧』に移行する可能性のある種」を意味します。
しかし、地域によっては状況がより深刻であり、例えば地中海個体群は「絶滅寸前(Critically Endangered: CR)」と評価されています。
この地域的な評価の違いは、特定の海域における集中的な漁獲圧が個体群に深刻な影響を与える可能性があることを示唆しています。
国際的な保護動向と日本の対応: ヨシキリザメは、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約、CITES)の附属書Ⅱに掲載されています。
これは、国際取引に規制がかかることを意味します。
日本はヨシキリザメの附属書Ⅱ掲載について留保を表明しており、これにより、本種を他国に輸出する場合には許可書が必要となるものの、自国への海からの持ち込みについては証明書の発給が不要となっています。
この日本の対応は、国際的な保全努力と国内産業(特にフカヒレ産業が盛んな気仙沼など)の維持との間で、各国が直面する資源管理の複雑なトレードオフを示しています。
国際マグロ類保存委員会(ICCAT)は、大西洋のヨシキリザメ資源について、バイオマスは比較的高いものの、乱獲の可能性を排除できないと指摘しており、漁獲量の上限設定を推奨しています。
しかし、この上限はまだ採択されていません。
日本では、気仙沼で水揚げされているヨシキリザメは「準絶滅危惧種であり、絶滅リスクは極めて低い」と認識されており、資源管理上問題はないとされています。
現在、フカヒレ、練り製品、軟骨など、ヨシキリザメの多様な利用は、その経済的価値の高さを反映しており、これが継続的な漁獲への強いインセンティブとなっています。
この状況は、保全努力をさらに複雑にしています。
したがって、広範囲に分布する海洋資源の管理においては、生態学的な知見、経済的な側面、そして国際的な政策の複雑な相互作用を考慮した、継続的な監視と適応的な管理戦略が不可欠であると言えます。
ヨシキリザメのいる水族館は?
ヨシキリザメの飼育実績のある水族館としては、仙台うみの杜水族館、旧・マリンピア松島水族館、葛西臨海水族園、三戸シーパラダイス、のとじま水族館、むろと廃校水族館、美ら海水族館(国営沖縄記念公園水族館)などがあげられますが、2025年6月現在、ヨシキリザメの公開を確認できる水族館はありません。
「世界一美しいサメ」天国へ 飼育、国内最長の873日 [宮城県]:朝日新聞
国内最長の飼育記録を更新していた仙台うみの杜水族館(仙台市)のヨシキリザメ(推定4歳)が(2020年12月)15日、死んだ。鮮やかな青色が特徴で「世界一美しいサメ」と称されるものの、ストレスに弱く、そもそも飼育例は全国でもまれ。飼育日数は873日間に及んだ。
同館が(2020年12月)17日に発表した。
まとめ
ヨシキリザメは、生物多様性の観点からも、水産資源としての経済的価値の観点からも、そして日本の食文化を支える伝統的な食材の観点からも、多面的な重要性を持つ種です。
その持続可能な利用と保全のためには、生態学的な知見に基づいた継続的な資源管理と、国際社会全体での協力が不可欠であると言えます。
興味深いですよ!「ヨシキリザメ」。