当「生き物のまつわる深掘り」カテゴリーの過去投稿には、以下のように「国訓である生物名」をテーマとした記事があります。
この過去記事の中で、「国訓である生物名」の事例として「藤(ふじ)」をとりあげるか否かを迷いましたが、事例として扱わなかった結果となった経緯があります。
実は、「藤」が国訓であるか否かは、名だたる漢字辞典がいろいろな見解を示しています。「藤」の漢字本来が意味しているものは一体何なのでしょう?
今回は「生き物にまつわる言葉を深掘り」のテーマとして「藤」を設定し、深掘りリサーチした結果を以下の目次に沿ってまとめレポートとしました。
「藤」の多様な意味と由来
「藤」という漢字は、実に多岐にわたる意味と由来を持ちます。
植物のフジ、つる性の植物の総称、藤原氏、さらには色や紋様など、様々なものを指します。
1. 植物としての藤(フジ)
マメ科の植物: 最も一般的な意味として、マメ科フジ属のつる性落葉低木を指します。
フジ(藤、学名: Wisteria floribunda、別名: ノダフジ)は、マメ科フジ属のつる性落葉木本で日本の固有種。本州から九州にかけて分布する。
花が咲く時期には「藤棚」が鑑賞・観光の対象となる。名称
和名フジの由来には定説がないが、一説には本来「フヂ」と呼称・発音され、風が吹く度に花が散るので「吹き散る」の意であるという。漢字表記の「藤」は、本来は中国産の種であるシナフジを中国で紫藤と表記したことにより、日本でこれを省略して当てたものである。
藤という字そのものは藤本(とうほん)、すなわちつる性で木本(もくほん、植物学用語)性の植物を指す言葉である。
Wisteria floribunda
国訓か否か:
「藤」にマメ科フジ属の意を当てたのは、国訓であるか否かについては、漢字辞典によって解釈が分かれています。
理由:
- 国訓説: 「藤」という漢字の本来の意味(=つる性の植物: つるを伸ばして生長する植物の総称)と(ノダフジ等の)マメ科フジ属のい植物との直接的な関連性が薄いことから、日本独自の意味を表す国訓であるとする説。
- 訓読み説: 「藤」にマメ科のフジの意を当てたのは、既存の漢字の意を汲んで日本固有の植物を対応させた訓読みであり、日本独自の新しい意味を当てる国訓とは異なるとする説。
- 結論: 現在、どちらの説が正しいか断定することは難しいですが、日本の文化の中で「藤」が植物として深く根付いており、その美しさや特徴から様々な文脈で用いられてきたことは確かです。
2. つる性の植物の総称
広義の意味: 単に「藤」というと、(漢字本来の意に近い)つる性の植物全般を指すことがあります。
例: 葛藤(かつとう、詳細は後述)など。
3. 藤原氏
日本の氏族: 古くからの日本の有力氏族の一つ。
由来:
藤原氏の祖である藤原鎌足が、藤の花のように繁栄することを願って名乗ったと伝えられています。
4. 色や紋様
藤色:
藤の花の色を指す淡い紫色。
紋様:
藤の花や葉を図案化したもので、家紋や着物などに使われます。
十大家紋(じゅうだいかもん)は、日本の家紋のうち、広く用いられている10つの家紋。柏紋、片喰紋、桐紋、鷹の羽紋、橘紋、蔦紋、藤紋、茗荷紋、木瓜紋、沢瀉紋を指す。
藤紋:
日本の公家を代表する藤原家および全国に散らばった藤原一族末裔の家紋として広まった。公家の頂点摂関家の九條家、二條家、一條家が藤紋を掲げている。さがりふじ 下り藤
葛藤(かっとう)の意味と語源・由来について
「葛藤」という言葉は、私たちの日常生活でもよく耳にする言葉ですね。
しかし、その深い意味や由来を知っている人は少ないかもしれません。
葛藤の意味
「葛藤」には、大きく分けて以下の3つの意味があります。
- 対立や争い: 人と人との間、あるいは心の中で、異なる意見や感情が対立し、争うこと。
- 心の葛藤: 心の中に相反する感情や欲求が生じ、どちらを選ぶべきか迷う状態。
- 煩悩: 仏教用語で、人間の心を乱し、正しい道を妨げるもの。
葛藤の語源・由来
「葛藤」という言葉は、文字通り「葛」と「藤」という二つのつる植物が絡み合い、もつれてしまう様子から来ています。
この様子が、人の心や状況が複雑に絡み合い、解けにくい状態を象徴しているのです。
- 葛: 「葛(かずら)」はつる植物の総称。特に、根からとれるでんぷんを食用にするマメ科クズ属の植物(=「葛(くず)」を指すことが多いです。根からとれるでんぷんは葛粉(くずこ)として利用されます。
「葛」は、漢字の成り立ちから、草木が茂る様子を表していると言われています。 - 藤(マメ科フジ属): マメ科のつる性植物で、春には美しい藤の花を咲かせます。
葛藤の深層
「葛藤」という言葉は、単に「もつれる」という意味にとどまらず、より深い意味を含んでいます。
- 仏教との関係: 仏教では、「葛藤」は煩悩の比喩として用いられます。
貪欲、怒り、慢心などの煩悩が心の中に絡み合い、苦しみを生み出すと説かれています。 - 心理学との関係: 心理学では、「葛藤」は意思決定の過程で必ず現れる現象として捉えられています。
複数の選択肢があり、それぞれにメリットとデメリットがある場合、人は葛藤を経験します。
「藤」と「籐」との漢字本来の意味
藤と籐の漢字の本来の意味について、詳しく解説します。
「藤」本来の意味:
つる性の植物: つるを伸ばして生長する植物の総称です。特に、木に巻きついて生長する様子を指します。
※日本語の「藤」の第一義であるマメ科フジ属のつる性落葉低木を中国語で表す場合は「紫藤」といった言葉が使われることが多いです。
※現在の中国語での第一義: 中国語では「藤」は一般的に「rattan」や「vine」を指す言葉として使われています。
「藤」本来の意味の英語:
- vine: 一般的につる性の植物を指します。ブドウのつるをイメージしやすいですが、藤も広義にはvineに含まれます。
- climbing plant: より直訳的な表現で、「よじ登る植物」という意味です。
「籐」本来の意味:
主に「籐の材料」や「籐製品」を指します。特に、家具や工芸品に使われるつる性の植物のことを指します。
現在の中国語では「籐」はあまり一般的に使われず、「藤」が主に使われます。
トウ(籐)は、広義にはヤシ科トウ亜科の植物のうち、つる性の茎を伸ばす植物の総称(13属約600種)。
ロタンやラタンともいう。
英名のラタン(英:en:rattan)はマレー語に由来する。そのうち特に代表的なヤシ科トウ属の蔓性木本(300種から400種)をいうこともある。
トウの繊維は植物中で最長かつ最強ともいわれ家具や籠などの材料にされる。
分布
アフリカやアジア、ジャマイカ、オーストラリアの熱帯域に分布する。トウ亜科の分布の北限は台湾で日本には自生せず栽培もされていない。籐と藤
漢字の籐は竹冠であり、草冠の藤(フジ)とは異なる(トウはヤシ科トウ属の蔓性木本、フジはマメ科フジ属の蔓性落葉木本)。
ただし、(現在の)中国語ではトウを藤と書き、フジ属は紫藤という。
中国語の籐は第一義では竹の器のことを指し、転じて竹に似たつる植物のことも指す。
「籐」本来の意味の英語:
rattan: ヤシ科トウ属を英語で表す最も一般的な言葉です。
中国語ではrattanのことは「藤」で表します。
現在の中国語での「藤」と「籐」
- ヤシ科のつる性植物「ラタン」は、中国語で「藤」(teng)または「藤条」(teng tiao)と呼ばれます。
- 「籐」を特定の用途(ラタンの意)に焦点を当てているのは、日本語で使用される漢字です。
- 「藤」は中国語で広く使われる漢字で、つる性の植物全般を指します。
- 現在の中国語において「籐」は一般的ではなく、「藤」が第一義として使われています。
「藤」の用語としての用例
- 藤の花: 春に美しい花を咲かせる。
- 藤棚: 藤が這い上がるように作られた棚。
- 藤色: 淡い紫色の色名。
- 藤原氏: 日本の古代から中世にかけて活躍した氏族。
- 藤蔓: 藤のつる。
藤娘
藤娘(ふじむすめ)は、
- 大津絵の画題。娘が黒の塗り笠に藤づくしの衣装で藤の花枝をかたげている姿。
- 大津絵に題をとった歌舞伎舞踊(日本舞踊)の演目、及びその伴奏の長唄。
藤娘の姿は多くの日本人形や羽子板の押絵にも用いられている。
ワシントンDCの日本舞踊家の藤娘
まとめ
「藤」という漢字は、植物、氏族、色、紋様など、多岐にわたる意味を持つ奥深い言葉です。特に、マメ科フジ属との関係は、国訓か否かという点で議論が分かれるなど、興味深いテーマとなっています。
また、現在の中国語において「籐」は一般的ではなく、ヤシ科のつる植物ラタンを表す場合も「藤」が使われる場合が多いので注意が必要です。
興味深いですよ!「藤」。