今回の「生き物にまつわる言葉を深掘り」のテーマは、「犬吠埼」です。
ご存じの通り、犬吠埼は関東平野の最東端に位置する千葉県銚子市の太平洋に突出する岬です。
この岬には、なぜ、犬が吠えるという名がついたのでしょうか?
「犬吠埼」の意味や語源、用例などを深掘りリサーチし、以下の目次に沿ってレポートしていきます。
犬吠埼の命名由来
犬吠埼の「犬吠」という地名の由来には、主に以下の二つの説が伝えられています。
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1. 海獣(ニホンアシカ)の鳴き声説
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この説が、海獣と地名を結びつける由来です。
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かつて犬吠埼の周辺には、絶滅したニホンアシカ(日本海狗)の大きな生息地がありました。このアシカの鳴き声が、犬が吠える声に非常によく似ていたため、「犬吠埼」と名付けられたというものです。
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近隣に「海鹿島(あしかじま)」という地名が残っていることも、この地域にアシカが多数生息していたことを裏付けています。
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地名の由来になった可能性があるニホンアシカ(日本海狗)
2. 源義経の愛犬伝説説
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源義経がこの地を離れる際、愛犬の「若丸」を置き去りにしました。
若丸は主人を慕い、岬で七日七晩吠え続けた末、ついに岩になってしまったという伝説です。 -
この岩は、近くの海岸にある「犬岩」として今も残っています。
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「犬」「狗」と海獣の関係
以下のリンク先「熟字訓で表される生物名」で確認されたように、犬のような顔つきをした鰭脚類(ひきゃくるい)の海獣の和名(漢字表記)には、犬を表わす「狗」の字がよく使われています。
- 海狗(あしか/おっとせい):アシカ、オットセイを表わす熟字訓。犬に似た顔の海獣の漢名が由来。
- 海犬(おっとせい):オットセイを表わす熟字訓(稀な表記)。オットセイの別名。
- 海豹(あざらし):アザラシを表わす熟字訓。模様がヒョウ(豹)に似た海の獣。
犬吠埼の由来とされるアシカは、この「海狗」や「海犬」といった漢字で表される海獣であり、「犬吠」の「犬」は、これらの海獣の鳴き声に由来していると考えられます。
ニホンアシカ(日本海狗)とは?
ニホンアシカ (Zalophus japonicus) は、哺乳綱食肉目アシカ科アシカ属に分類される鰭脚類。かつては東アジアを中心に分布していたが絶滅したと考えられており、現生鰭脚類では本種とカリブモンクアザラシが絶滅種に指定されている。
別名としてアジカ・アシカイオ・ウミオソ・ウミヨウジ・ウミカブロ・クロアシカ・トド・トトノミチ・ミチなどがある。
小野蘭山の「本草綱目啓蒙」などから日本海側では本種がトドと呼称されていた可能性もある。
日本近海では106か所のアシカ(35か所)・トド(71か所)の名のつく地点が存在する、あるいは過去に存在していた。これらはアシカとつく地点は千葉県銚子市以南宮崎県日南市以北の太平洋岸および瀬戸内海、トドとつく地点は北海道岸・岩手県大船渡市以北の太平洋岸・島根県までの日本海岸に分かれる。
トドとつく地点に関しては種トドの繁殖地と異なる地域(トドの繁殖地は北海道以北)が含まれること、日本海側で本種がトドと呼称されることもあったことから、本種が由来となっている可能性もある。
まとめ
「犬吠埼」の由来から、海獣名の漢字表記(熟字訓)などについて、深掘りしてみました。
「犬吠」の「犬」は、海獣の鳴き声(または義経の愛犬)に由来していると考えられます。
興味深いですよ!「犬吠埼」。


