「名は体を表す」と言いますが、時には後からやってきた「よりインパクトの強い存在」が、元祖から名前を奪い取ってしまうことがあります。
かつては彼らがその名の主役だったはずなのに、今では「ニセ」と呼ばれたり、わざわざ別の呼び名を付けられたり……。
そんな、ちょっと切ない「後出しジャンケンの被害者」たちをご紹介します。
- 1. 「パンダ」といえば私だった:レッサーパンダ
- 2. 自分自身を否定された名前:シフゾウ(四不像)
- 3. 文学の香りを守る「影の主役」:ニセアカシア
- 4. 美脚のイメージに泣く:ニホンカモシカ
- 5. 猛禽類のブランド格差:クマタカ
- 6. 異国の地名が重荷に:モルモットと韃靼そば
- 7 名前の輸出入トラブル:ホロホロチョウ
- まとめ:消えない「元祖」の誇り
1. 「パンダ」といえば私だった:レッサーパンダ
今や「パンダ」と言えば、白黒模様のジャイアントパンダが当たり前。
しかし、もともと「パンダ(ネパール語で竹を食べるもの)」と呼ばれていたのは、愛らしい茶色のレッサーパンダの方でした。
ところが、後から巨大でインパクト抜群の(異種であるクマ科の)ジャイアントパンダが発見されるやいなや、世界中の注目はそちらへ。
元祖パンダは、区別のために「Lesser(より小さい、劣った)」という、なんとも失礼な冠を付けられて脇役に追いやられてしまったのです。
2. 自分自身を否定された名前:シフゾウ(四不像)
今回、最も「悲哀」を感じさせる存在が、シカ科の「シフゾウ」です。
漢字で書くと「四不像」。これは「四つの動物に似ているが、そのどれでもない」という意味です。
角はシカ、蹄はウシ、頭はウマ、体はロバ。そのどれにも似ているのに、結局「何者でもない」という否定形で名付けられてしまいました。
彼はまぎれもなく「シカ科」の一員です。
それなのに、シカという正当な名前で呼ばれず、「〜ではないもの」という曖昧な名前を背負わされた姿には、自らのアイデンティティを否定されたような切なさが宿っています。
3. 文学の香りを守る「影の主役」:ニセアカシア
前回の記事でも触れた通り、かつて日本で「アカシア」と呼ばれ、歌や詩に詠まれていたのは白い花のニセアカシア(ハリエンジュ)でした。
蜂蜜のラベルに「アカシア」とあるのも、実はその多くが彼の蜜です。
しかし、植物学上の「本物の(黄色い花の)アカシア」が後から有名になると、彼は「ニセ」という不名誉なレッテルを貼られました。本家を支え続けてきたのに、後出しで偽物扱いされる姿には、同情を禁じ得ません。
4. 美脚のイメージに泣く:ニホンカモシカ
「カモシカのような足」と言えば、細くてしなやかな美脚の代名詞。
しかし、そのモデルとなったのはアフリカのレイヨウ(アンテロープ)たちです。
実は、日本古来の「ニホンカモシカ」は、牛の仲間でずんぐりとした体型。足も決して細くはありません。
海外の「カモシカ(と呼ばれた動物)」のイメージが先行してしまったために、本家であるはずの彼が「イメージと違う」とガッカリされるという、とんだ風評被害を受けているのです。
5. 猛禽類のブランド格差:クマタカ
空の王者「ワシ(鷲)」と、敏捷な狩人「タカ(鷹)」。実はこの二つ、大きさ以外に明確な分類上の違いはありません。
クマタカは、その巨大さと強さからすれば「ワシ」を名乗ってもおかしくない存在です。
しかし、すでに「イヌワシ」などのブランドが確立された後では、どんなに威厳があっても「タカ」のカテゴリーから出ることが許されませんでした。
「ワシ」という上位ブランドへの昇格を拒まれた、元祖・森の王者です。
6. 異国の地名が重荷に:モルモットと韃靼そば
これらは、本当の名前があるのに、誤解や特殊な事情で「別の名前」が定着してしまったケースです。
- モルモット:オランダ人がマーモットと間違えて紹介したせいで、今でも「モルモット(マーモットのなまり)」と呼ばれ続けています。そして、あまりに実験動物のイメージがつきすぎて、現在は和名「テンジクネズミ(天竺鼠)の普及促進中です。
- 韃靼(だったん)そば:もともとはアジアで広く食べられていた「苦蕎麦」。
後から入ってきた苦味のない「普通そば」が主流になったため、わざわざモンゴル系の部族名(韃靼)を付けて区別されるようになりました。
7 名前の輸出入トラブル:ホロホロチョウ
英語でシチメンチョウを「Turkey(ターキー)」と呼びますが、もともとこの名はアフリカ産のホロホロチョウを指していました。
ところが、新大陸でシチメンチョウを発見した人々が「これ、トルコ経由で入ってくるホロホロチョウに似てるな」と混同して呼び始めた結果、本家のホロホロチョウは名前の権利を完全に奪われてしまったのです。
まとめ:消えない「元祖」の誇り
「〜ではない」と否定されたシフゾウや、後から来た者に名前を奪われ、時には「ニセ」や「劣った」という意味の言葉を付けられてしまったレッサーパンダやニセアカシア。
しかし、その名前のねじれこそが、人類が世界を広げ、多様な生き物に出会ってきた歴史の証でもあります。
彼らが背負った「悲哀」を知ることは、言葉の裏側にある人間たちの驚きや混乱、そして憧れを再発見することでもあります。
次に彼らに出会ったときは、ぜひ「君こそが元祖なんだね」「君は立派なシカだよ」と、心の中で声をかけてあげてください。
興味深いですよ!「名と実がズレてしまった生き物たち」。
次回も お楽しみに!







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