「腐っても鯛(たい)」ということわざがあるように、日本では古来、タイは魚の王様として別格の扱いを受けてきました。
その真っ赤な魚体と、お祝い事に欠かせない「めでたい」という語呂合わせ。日本人のタイへの執着は、ある面白い現象を生み出しました。
それが、魚類学上の分類とは無関係に、名前に「タイ」と付けてしまう「あやかりタイ」たちの増殖です。
1. そもそも「本物のタイ」とは誰か?
私たちが「本物のタイ」と呼ぶべきなのは、スズキ目「タイ科」に属する魚たちです。
代表格はマダイ。
そのほか、クロダイやキダイ(レンコダイ)などがこの「タイ科」の正統な一族です。
しかし、現在日本で「〇〇ダイ」という名前がついている魚は、なんと300種類を超えると言われています。その大半は、実はタイ科ではない「赤の他人(他魚)」なのです。
2. 多彩な「あやかりタイ」たちの分類
なぜこれほどまでに、タイではない魚にタイの名が付けられたのでしょうか。
過去のブログでも触れてきた通り、そこにはいくつかの「命名のパターン」が見て取れます。
■ 見た目のシルエットで「タイ」とされたもの
平たい体つきや、いかにも魚らしい形から名付けられたグループです。
縞模様が特徴的な「イシダイ」や「イシガキダイ」「カゴカキダイ」、矢羽のような模様の「タカノハダイ」、さらにはひし形の「ヒシダイ」や円形の「クルマダイ」など、形をそのまま名前に反映させています。
■ 色や華やかさで「タイ」とされたもの
「赤い=タイ」という直感的な命名です。
深海の赤い貴婦人「キンメダイ」をはじめ、美しいピンク色の「ハナダイ(チダイなどの俗称)」、一際鮮やかな「イットウダイ(一等鯛)」などがこれに当たります。
■ 顔立ちや部位の特徴から命名されたもの
魚の「顔」の印象でタイの仲間入りをしたグループです。
鼻先が突き出た「テングダイ」や、口元が笛を吹いているような「フエフキダイ」、大きな目が特徴の「メダイ」、そして体に的のような模様がある「マトウダイ」。
どれも個性派揃いですが、名前の最後は「タイ」で締めくくられています。
■ 味や食感への期待を込めたもの
「タイのように旨い」という太鼓判を押されたグループです。
上品な甘みが自慢の「アマダイ」や、独特の食感を持つ「イボダイ」、コショウを振ったような模様の「コショウダイ」、そして磯の香りが強い「ニザダイ」。
■小さくてもタイの風格(?)
さらに、小さくてもタイの風格(?)を持つ「スズメダイ」まで、そのバリエーションは多岐にわたります。
小さくてもタイのシルエット(形)をしっかり受け継いだ『スズメダイ』。
スズメのように小さいけれど、その姿は立派なタイに見える……そんな昔の人の観察眼が光るネーミングです。
3. 歴史が生んだ「タイ・インフレ」
江戸時代から明治時代にかけて、日本の食文化が豊かになるにつれ、「タイ」というブランドは今以上の価値を持つようになりました。
地方で獲れる美味しい魚に、あえて「タイ」の名を付けて江戸や大都市へ送り出す。
これは、現代でいう「ブランド偽装」というよりは、むしろ「この魚はタイに匹敵するほど旨いぞ!」という、産地の誇りをかけたマーケティング戦略だったと考えられます。
名が実を牽引し、その魚の地位を向上させていったのです。
まとめ:名前に込められた「日本人のタイ愛」
今回紹介した「あやかりタイ」たちは、決して私たちを騙そうとして名付けられたわけではありません。
- 美味しさへの敬意
- 見た目の共通点
- 価値の向上
これらはすべて、日本人がいかにタイを愛し、最高の魚として崇めてきたかの証拠でもあります。
分類学という「理(ことわり)」で見れば間違いであっても、文化という「情(じょう)」で見れば、それらは立派な「タイ」だったのです。
次に「〇〇ダイ」を口にするときは、その名前に込められた先人たちの「あやかり精神」にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
興味深いですよ!「名と実がズレてしまった生き物たち」。
次回予告: 次回の「生き物にまつわる言葉を深掘り」は、さらにややこしい植物の世界へ。 「アカシア」を巡る嘘と真実、そして「ニセ」の烙印を押された植物の悲哀に迫ります。お楽しみに!
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